雪霸国家公園の植物の種類は非常に多く、記録されている1,976種の維管束植物のうち、418種の固有種と79種の希少種が存在しています。中でも、棣慕華風仙花(Impatiens devolii Huang)は、世界中でも観霧地区でしか見られない固有種で、個体群が小さいため、厳重に保護しなければなりません。 雪霸の植物のほとんどは東アジア地域の固有種に属しており、氷河期に北方の大陸に広がった氷河による破壊は受けなかったと推測されています。そのため、大霸尖山や雪山の尾根近くの高山には、地質時代のさまざまな遺存種が残っています。例えば、第三紀鮮新世(約180万年前)から存在しているタイワンサッサフラスは、主に敷地内の大鹿林道、大雪山林道、雪見などの地域に生育しています。また、サッサフラス属の植物は世界的に見ても北米、中国、台湾の3種しか存在しておらず、学術的に特殊な地位を占めています。
敷地内の山々の起伏や大きな標高差がさまざまな植生の環境を豊かにしています。また、その他の恵まれた環境要因の相互作用が、植生の形態をより複雑にし、種類をさらに豊富にしています。
棣慕華鳯仙花(ツリフネソウの一種)
伊沢山竜胆(リンドウの一種)
棣慕華鳯仙花(ツリフネソウの一種)
高山ツンドラ
高山ツンドラとは森林限界を超えた地域のことです。土壌が強風や激しい雨水に流されて非常に浅くなっているために森林が形成されず、低木や草本植物のみが生育できます。大雪山、雪山から大霸尖山に続く峰、稜頂、谷が崩れた地域など標高3,000m以上のエリアでは、優占種の違いにより、高山草本植物群落と高山低木群落の2つのタイプに分けられます。
高山草本植物群落は、主に雪山の主峰と北稜角両側の谷が崩れた地域と聖稜線の標高3,600m以上の稜線近くに分布しており、この種の植物群落では台湾最大の分布域となっています。特筆すべきは、この植物群落にはさまざまな地質時代の遺存種が保存されているという点です。現在は一部の地域にミツバヒキノカサ、ニイタカナズナ、キバナノコマノツメなどが生育しており、台湾の植物の遺伝子を保存する宝庫となっています。
高山の低木植物群落は台湾の高山によく見られる植生で、大部分が山頂や風の強い尾根に分布し、主にニイタカビャクシン、ニイタカシャクナゲ、ナンコミネヤナギなどで構成されています。中でもナンコミネヤナギは、雪山の北峰から北稜角の稜線の両側に分布しており、台湾最大の個体群が形成されています。他の2種は全エリアに広く分布しています。
ニイタカシャクナゲ
亜高山帯針葉樹林
標高2,900mから3,600m辺りに分布している森林帯で、高地は高山ツンドラ、低地は冷温帯の針葉樹林帯に属しています。代表的な植物はニイタカビャクシンとニイタカトドマツです。
ニイタカビャクシンは風がなく豊かな土壌の山腹の谷で高木の森林を形成します。敷地内の雪山西側にある翠池付近や雪山北峰の東側の谷に分布しています。雪山付近のニイタカビャクシンの森は台湾で最も面積が広く、最も美しい林相を誇っています。
翠池横のニイタカビャクシン
ニイタカトドマツは、全エリアの標高2,500~3,700mに広く分布しており、品田山から雪山主峰の谷に最も多く生育しています。
もともと鬱蒼と生い茂っていたニイタカトドマツの純林は、火災という不幸に見舞われ枯れてしまいました。風、日差し、雨など、長きにわたる風化で樹皮が徐々に剥がれ落ち、白い幹が現れていますが、それでも誇らしげにそびえ立ち、いわゆる「白木林」を形成しています。
三六九山荘のシラキ林
ニイタカビャクシン
冷温帯の山地針葉樹林帯
敷地内の標高2,000~3,000mに分布する代表的な樹種はツガで、その面積は最大となっています。そのほか、クモスギや二次遷移のマツや草生地が点在しています。
ツガ林型
全エリアの標高2,000~3,400mに広く分布しており、特に塔克金渓上流に最も多く生育し、純林が広範囲に形成されています。その広い分布と高い適応能力から、さまざまな生育環境でニイタカトドマツやニイタカアカマツなどと混生しています。
マツ林型
敷地内の標高1,000~3,200mに分布しており、優占種は主にニイタカアカマツです。標高の高さにより、ニイタカトドマツ、タイワンツガ、タイワントガサワラ、タカネゴヨウ、アベマキ、クェルクス・セメカルピフォリアなど、段階的にそれぞれ異なる植物との混生が見られます。
タイワンツガの松ぼっくり
タカサゴサビバナナカマド
暖温帯の山地針葉樹林帯
ヒノキ林帯とも呼ばれ、一般的には標高1,500~2,800mに分布しています。主な優占種はタイワンベニヒノキとタイワンヒノキで、タイワンスギ、ランダイスギ、タイワントガサワラ、タイワンツガ、タカネゴヨウなど、さまざまな針葉樹と混生しています。
針葉樹の混生林型
標高2,000~2,700m辺りのエリアに分布し、通常、タイワンツガ、タイワンベニヒノキ、タイワンヒノキ、タイワンスギ、ランダイスギ、タイワントガサワラ、タカネゴヨウ、ニイタカアカマツなど、さまざまな針葉樹の混生により形成されています。特に目立った優占種は見られません。
針葉樹と広葉樹の混生林型
標高1,000~3,000mに分布する針葉樹と広葉樹の混交林帯です。標高により2つの林型に分けられ、標高2,500~3,000mはタイワンツガ林と非常によく似ています。標高1,000~2,500mは、ヒノキ林とやや似ています。
ヒノキ林
針広混交林
暖温帯の広葉樹林帯
常緑広葉樹林型
主に標高2,500m以下に分布し、非常に複雑な種類で構成されています。台湾で植物の種類が最も豊かな群落となっています。標高1,500mの雲霧林帯は、櫟林帯(クヌギ)と楠櫧林帯(クスノキ・カシ)に大別できます。櫟林帯における植物群落の構成は、広葉樹が針葉林に取って代わっている以外、ヒノキ林の群落とほぼ同じです。楠櫧林帯は標高700~1,500mに分布しており、通常は3~4層構造になっています。
落葉広葉樹林型
標高1,000~2,500mに分布し、主な樹種は、タイワンハンノキ、タイワンオナガカエデ、オナガカエデ(川上氏槭)、アベマキ、ノグルミ、タイワンクルミ、タイワンサッサフラスなどで、冬に葉が落ちると一味違った趣を見せます。
ノグルミ
タカサゴウリカエデ